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コラム

次世代モノづくり講演会・工場見学会(トヨタ自動車 上郷工場)

次世代モノづくり最前線
「現場力で実践するDX」、「現場が貢献するカーボンニュートラル」とは?

激変するモノづくり現場

 DXは、さまざまな業界・業種で活用の具体化が進むが、昨今のモノづくり現場でも、具体化のひとつの方向として「現場自律型の取組み」が見えはじめている。従来の現場での問題・課題を自ら解決に導くための、いわゆる「カイゼン」の取組みは「強靭な現場力」の象徴であり、まさに日本のモノづくりの強み・競争力と言えるだろう。では、現場でのDX活用においてはどうだろうか?

 DXにおいても、いわゆるデジタルツールやパッケージソフトなど「買ってきたもの」をそのまま使用するのではなく、ツールやソフトそのものを現場流に「カイゼン」することや、自ら内製・内作することで、さらに他社との差別化や競争力強化につなげることができるのではないか?言葉を変えれば、現場での「手作りDX」と言える取組みである。これを実現するためには「現場のデジタルリテラシーの向上」がカギとなるだろう。「現場力×DX」が日本のモノづくりの強み・競争力となり得るかもしれない。

 カーボンニュートラルの実現も、モノづくり現場に与えるインパクトは大きい。しかしながら、製造現場や設備管理で貢献する方法・手段について、産業界各社が模索している現状である。ただし、現場の問題解決力が、環境ロス削減にも貢献することは間違いない。
 この「DX」と「カーボンニュートラル」に、「現場力」を融合した先進事例を紹介する現場で実践するDXが貢献するカーボンニュートラル次世代モノづくり講演会が、2023年12月1日名古屋国際会議場(主催 公益社団法人日本プラントメンテナンス協会、以下JIPM)で開催された。

現場が主体となって考え、挑み続ける

 現場が取り組む対象として、「DX」や「カーボンニュートラル」はスケールが大きい課題と思われるかもしれない。しかし、両課題への取組みは、地道な改善を通じて蓄積された「現場力」があってこそ前進できる課題なのだ。

 トヨタ自動車株式会社 斉藤 富久 氏(上郷工場・下山工場 工場長)の基調講演をはじめ、5つの事例紹介※が行われた本講演会では、いずれも「現場力」で培った「課題認識」、「原因分析」、「解決策検討・実行」などを発揮して課題に向き合う姿勢が土台にあった。そこに、デジタル技術を導入して効率化を図ることでDX化につなげている。この活動の「問題をリアルタイムに把握し、すぐに解決する」「問題が起きる前に予兆で止める」などの段階的なねらいから、目指す姿「予測・予見の世界/手の内化・コントロールできている」への実現に向け、コントロールセンターやデジタル管理ボード、兆候自動判定システムなどの現場での開発事例は、具体的で迫力のある内容であった。

基調講演をおこなう斉藤 富久 氏

 また、現場のムダを見える化し、一つひとつを解消することでカーボンニュートラルの取組みにもなる。確かに一現場での取組みとしては、ゴールに対し効果は小さいかもしれないが、全員参加で挑み続けることで、持続可能な全社規模や地球規模の課題に取り組むことができる。
 カーボンニュートラルという大きな課題のもと、こういった姿勢で現場が挑戦し続けることが、「今後の目指すべきモノづくりのすがた」の一つであると言えるだろう。

※中部電力ミライズ株式会社、株式会社デンソー、トヨタ自動車株式会社、TPMマネジメント研究会(JIPM内研究会)、JIPM

時代や技術が進んでも、現地、現物、現実が基本

 次世代モノづくり講演会のキーワードであった「現場」。これは、時代や技術が進展しても、その主軸は、現場、現物、現実の「三現主義」がモノづくりの基本であることを示している。
 そこで、次世代モノづくり講演会では、連動企画として、トヨタ自動車株式会社 上郷工場のご協力のもと、講演いただいたDX、カーボンニュートラルの取組みを、「現場」で再認識する工場見学会を12月21日に開催した。
 上郷工場の見学を通じて再認識したことは、「転換力」と「ボーダレス」の2つのキーワード。

工場見学会の様子

 カーボンニュートラルの一事例として紹介いただいた手作業ライン「スーパー・スキルライン」は、「シンプル・スリム」化したのち自動化を取り入れたラインだ。ただし、このラインは、カーボンニュートラルのために構築されたラインではない。再雇用者対応として、体力に頼らなくても作業ができるよう「からくり改善」を用いた、作業者にやさしいラインであり、それが障碍者雇用も含めた、誰でも働きやすいダイバーシティ現場の実現にもつながっている。そして、無駄なエネルギーを使わないことで、そのやさしさが地球環境対策にも転換され、カーボンニュートラルにもつながっているのだ。
 DXの事例としては、さまざまな情報を集約・分析されたコントロールセンターである。工場のど真ん中に配置された四角い建屋にそれはあった。建屋の一面がディスプレイ化され、さまざまな情報が投影されており、自動車工場としては見たことのない光景だ。そして、トラブルが発生すると、関係する部門が集まり、情報分析と対策が検討され、すぐに発生現場に向かうとのこと。部門間や、人とシステムのボーダーを排除することで、高度で素早い対策を実現している。現場の想いから生まれたこのシステムは、トヨタ自動車の「改善後は改善前」の考え方のもと、今後も現場とともに成長し続けるシステムになるのであろうと感じた。
 講演会、工場見学会を通じて、参加者には、さまざまな気づきを得られたようだ。
 今後もJIPMでは、現場発の「今後の目指すべきモノづくりのすがた」を発信していく。

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①TPM経営者懇話会

 TPM経営者懇話会は「設備管理、人材育成、新技術活用」などに関する経営上の課題を認識し、克服するための手段について情報収集する場として1988年に発足いたしました。また、本懇話会を通じた登録者同士の交流及び情報交換を促進することも開催の目的の一つとしております。各界の有識者による講演や、先駆的な取り組みをされる企業の工場見学など、新時代に向けた様々な視点での情報収集や、各社の現場革新・経営革新の一助となることを目指し、本懇話会を運営いたします。

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